10年ほど前、彼が新幹線のCMに起用された頃、同僚がまず気づいた。
「君、よく見ると、春馬に似てないか?」
「…⁉」
当時は北国の田舎町に住んでいたのだが、新幹線開通を前に、
ローカル線のあちこちで彼のポスターを見かけた。
元々、いいなと思っていた俳優さんであった。
ただのイケメン枠に収まりきらない、品と清らかさと芯を秘めたオーラがあった。
ドラマ「サムライ・ハイスクール」で時代劇が似合うことが分かり、「将来、大河ドラマで活躍しそう」と思っていた。
そんな今をときめく、キラキラした人気イケメン俳優。
突然似ていると言われても、ピンとこなかった。
その後も酒席で、何人かの方から指摘された。
冗談っぽく「似てるけど、親戚?」と聞かれた。
(東京は田舎と違って親戚だらけではありません……)
母からは「我が子ながら、横顔がそっくり」とも言われた。
本物を見た人から、テツコよりはるかに華奢でキレイだった報告も受けた(し、失礼な!!)
当時、ショートカットで男性オーラ全開でバリバリ仕事をしていた私。
なるほど、鼻筋は彼のように通っていないが、目元、口元あたりはよく似ている、かもしれない。
人気芸能人に似ているなんて、ラッキー!
それからは自己紹介のネタとして、お気軽に名前を拝借していた。
そんなある日、彼が巻頭を飾っている雑誌を何気なく手に取り、あるページで私は突然フリーズした。
斜めアングルから撮った彼の写真が、鏡を見ているかと思うほど、自分にそっくりだったのだ。
かたや今をときめくスター俳優。かたや田舎であくせく働く、くたびれた社畜系女子。
それが、なぜこんなにも似ていると思ってしまうのか。
何とも言えない、ざわついた気持ちになった。
それから、彼のことは、自分の中ではネタとして済まされなくなっていた。
他人事のように思えず、かといってファンを公言するのもはばかられ、
おそるおそる、ひっそりと彼を定点観測してきた。
彼は青春映画の主演俳優として活躍した後、どんどん骨太な役ができるようになっていった。
身体も鍛え、マッチョイムズに走る所が、少々気になっていたが……俳優だし、舞台もやっているし、男の人ってそんなものかなとも思った。
大河ドラマ「おんな城主 直虎」では主人公・直虎のいいなずけ役を好演。
カリスマ性あふれる柴咲コウ、名バイプレイヤー・高橋一生との三角関係を堂々と演じてみせた。
(「直虎」は特に前半が素晴らしく、この3人の名演は、大河史上屈指の美しい三角関係であると思う!)
ミュージカル「キンキーブーツ」のドラッグクイーン役は生で見られなかったが、ニュースの映像を見て、一皮むけたことは容易に想像がついた。
さらに、彼は童貞役のコメディーでも新たな魅力を開花していた。
この頃、彼は顔の骨格も身体つきも、すっかり壮年の男らしくなっていた。
私も眉毛を変えて髪を伸ばしたこともあり、さっぱり似ているとは言われなくなった。
最後の定点観測は、7月18日の朝だった。
これは虫の知らせでも何でもなく、
出演する映画の公開を控え、彼をトピックにしたニュースがたまたまネットに上がっていただけだ。
三浦春馬が『コンフィデンスマンJP』で演じるジェシーが魅力的な理由 ダー子との真の関係は?
「いい俳優になったなあ。輪郭がずいぶん角ばってきて、短髪がカッコいい。男ぶりをあげたなあ」
久しぶりに惚れ惚れと彼の画像を見た。そこにもはや、自分の面影を探すことはなかった。
その後、私は昼寝をした。
夕方、目が覚めてから、何気なくニュースを見て、「???」となった。
頭が混乱して、事態がうまく呑み込めなかった。
同姓同名の別の人がいるのかと疑ったくらいだ。
それ以降、彼にまつわるニュースを、私は積極的に見ることはできていない。
偶然、ニュースの映像が目に入り、10代後半から20歳そこそこの彼が、一番自分に似ていたな、素直に感じた。
カウンセラーだから色々と分析をすることはできる。
でも、彼について掘り下げることは、今はあまりしたくない。
何だか実感が湧かないことにしておきたい。
「おんな城主 直虎」で主人公が恋焦がれた彼が、陰謀に巻き込まれ、あっさり画面から消えたように。
数々のスクリーンに残る鮮烈なきらめきを、ただ脳裏に残しておきたい。