「人の本音を聞いてこい」
記者として、社会人生活をスタートさせた時、初めての上司であるデスクから言われた言葉。
それ以来、私は「本音って一体何だろう?」「人はいつ、本音を語るのだろう?」という疑問が常に頭の中にある。
本音を語っていない人は直感的に分かることが多い。こんな格好いいこと言ってるけど、本当のところ、どう思っているんだろうか?本心を覗いてみたい。それはけっして意地悪な気持ちではないし、相手を暴いてやろうと思っているわけでもない。純粋に好奇心というやつだ。
本音って面白い。そして、むき出しで狂暴だけれど、美しいと思う。私の美学、そう、本音は美しいのだ。
そして、自分の本音に気づくと、人生を楽に生きられるし、さらに楽しめると思う。
入社前の私は、いわゆるコミュ障というやつで、家庭や学校など方々でイジメに合い、心を許せる友人もなく、10年間も感情を凍らせたまま日々過ごしていた。唯一、物語を読んだり観たりした時にだけ感情が動くのを確認できた。
だけど、それ以外はまったく怒りも悲しみも喜びもなく、周りが笑えば自分も合わせて笑うという、機械的なコミュニケーションでなんとかやり過ごしていた。
そんな中、ひょんなことから記者となり、肩書、年代問わず、ホームレスから国会議員まで、突然多くの人と接することになった。とても自分には無理な仕事だ。1年持ったらいいほうだろう……
拒絶する間もなく仕事が雪崩のように降ってきた。
私は半ばやけくそで仕事に取り組んだ。
荒療治が聞いたのか、人と接することには慣れていき、他人の喜怒哀楽にダイレクトに触れることで、私は感情を徐々に取り戻していった。
(続く)